松之山では、標高200m前後の丘陵地から標高1000mほどの山地までブナ林が成立しています。本州中央部では、標高1000m前後より上部にブナ林が出現することが多いのに対し、ほぼ同緯度で日本海側のブナ林ではこのように分布標高が低く、学術的にも興味深い低標高のブナ林が成立しています。このような雪国松之山に広がる低地ブナ林の分布には、松之山が日本有数の豪雪地帯であることが密接に関係していると考えられています。

  
標高1000m付近のブナ林          標高300m付近のブナ林

ブナ林の分布と積雪の多い地域とはとてもよく一致し、雪が多い地域に多くのブナ林が成立しています。また、積雪量の多さとブナ林を構成する樹木の優占度の関係を調べた研究では、ブナ以外の樹木は積雪量の多い地域で優占度が減少、もしくは生育できないのに対して、ブナは積雪量が多くなるほど森林の中で優占度が高くなることが明らかになっています。なぜ、雪が多い地域でブナが優占出来るのでしょうか?5m以上もの積雪がある雪国では、森の樹木たちにはすさまじい雪圧がかかります。ブナ林を構成する樹木の多くは、雪圧が高くなるほど幹が寝てしまう樹形となり、なかなか直立することが困難です。しかし、ブナは高い雪圧でも完全に寝た樹形となることはなく、根曲がり樹形をとって直立する傾向があります。


根曲がりしたブナの樹形

このように、ブナは雪圧に対して他の樹木の追随を許さないような強さを持っています。また、雪が少ない、もしくはほとんど積もらない地域では、冬季の乾燥やネズミ類による捕食がブナの種子の大きな死亡要因の一つになっています。しかし、積雪があることでブナの種子が乾燥から守られ、また積雪はネズミ類の行動を抑えるため、冬季のブナの種子の死亡率が低く抑えられことがわかっています。このように、雪の多い地域でブナが優占するようなさまざまな仕組みがあると考えられています。
松之山でブナ林が成立する200mほどの標高は、実はブナの生育に適した温度領域からは外れ、暖かい地域に入ります。しかしながら、低標高ながら多量の雪が降り日本有数の豪雪地であることがブナ林の成立を可能とさせ、低標高ながらブナの優占した純林状のブナ林が成立する、学術的にも大変興味深い地域となっています。
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