日本の三大薬湯とされる「松之山温泉」は、日本国内で普通見られる火山型の温泉ではなく「ジオプレッシャー型温泉」と呼ばれる地質学的特殊な温泉です。

●ジオプレッシャー型温泉とは
海底に堆積し海水を多く含んだ地層が、隆起運動によってお椀を逆さまにしたような地形となり、長い年月を経て、ガス、石油、水に分離する。その水が温泉の起源となる。これは、メキシコ湾岸の油田開発で認識されたもので、その熱水系の深さは2~7kmに位置する。水を透さない、熱を伝えにくい地層に挟まれて、ガスや石油が貯留するシステムによく似ている。地層に挟まれているため、かなり高い圧力がかかっている。

●ジオプレッシャー型温泉の特徴
○深い海の堆積盆地で、地層中に閉じ込められた海水が起源
○地下2キロから7キロの深さに分布
○静水圧を大きく上回る異常高圧
○熱水の起源は変質した化石海水であり、大量のメタンガスを伴う
○熱源は地殻内部の熱伝導であり、熱水の温度は50℃から150℃

●松之山におけるジオプレッシャー
松之山温泉の場合、リザーバー(分離された熱水を貯めておくところ)は、深度約3000メートル、温度約140℃と推定される。その熱水が透水性の低い岩石に封じ込まれており(これが「ジオプレッシャー」の語源)、これにより、静水圧を大きく上回る流体圧になる。熱水は、異常高圧がかかっているので、断裂を通じて一気に上昇してくる。その為、上昇する間に地下水と混合しない

●火山型温泉とジオプレッシャー型温泉の違い
日本のほとんどの温泉が属する火山型温泉とその特徴を比較してみる。

最も特徴的なのが、水の起源であろう。火山型温泉が「水」を起源としているのに対し、ジオプレッシャー型温泉は「海水」を起源としている。また、火山型の温泉で成分や泉質が違うのは、地中で様々な物質と混合する為で、ジオプレッシャー型の温泉は、そのリザーバーに異常高圧がかかっている為に、地表まで他の物質とは混合しないのが特徴だ。

●松之山温泉の特徴
1. ジオプレッシャー型で静水圧を大きく上回る異常高圧である
2. 温泉井戸によって、35~95℃の泉温の違いがあるが、塩分濃度はほぼ一定。つまり、低温の地下水と混合していない。
3. 地下3000メートルから断層を通じ浅層まで上昇している
4. 起源は地層に貯留された化石海水である(およそ800~1200万年前頃)
5. 化石燃料(石油、石炭)などと同様に温泉の資源に限りがあるので有効活用すべき

最もロマンティックなのは、現在湧き出ている温泉が、約800~1200万年前の海水だという点であろう。まさに温泉の化石である。また、他の物質と混合していない為、その泉質と効能は、信頼のおけるものといえるだろう。逆に、その特色ゆえに最も危惧する点は、温泉がいつかは枯渇するということである。それはいつか? 地質学的には近い将来らしいが、人間のスケールから言えば、遠い将来らしい。つまり、何万年先か、何十万年先か、何百万年先か。ただ、乱開発によって、それが、近い将来になる可能性は否定できない。このことをよく考えて、行政、観光業者は資源を有効活用する必要がある。

ここに書いた内容は、平成11年5月24日松之山温泉観光協会総会において、新潟大学積雪地域災害研究センター 渡部直喜先生による講演「地質学的にみた松之山温泉」をまとめたものです。

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