Archive for the '④キョロロ雑記' Category

【森のめぐみを暮らしの中に】間伐&スウェーデントーチ・カトラリーづくり:里山の生き物サポーターズ②

水曜日, 5月 24th, 2023

「里山の生き物サポーターズ」は里山管理活動と連動した市民参加型生物多様性保全活動です。里山の田んぼ、ため池、森、草地をフィールドにした里山管理活動を通して、みんなで楽しく生き物が暮らしやすい環境の創出や維持を目指しています。
5月は「間伐&スウェーデントーチ・カトラリーづくり」をテーマに、スギや低木の間伐を行い森を明るくすることと、間伐木をスウェーデントーチやカトラリーに加工することにチャレンジしました。
スウェーデントーチ(焚火用に切れ込みを入れた丸太)は近年キャンプなどでのアウトドアアイテムとして人気のある丸太型の焚火です。またカトラリーづくりでは、里山整備で伐った木々の枝を材料にした道具作り体験を通じて、自然のめぐみについて考えました。

まずはスギの木を1本伐倒しました。
伐倒したスギをノコギリを使って約40cm間隔で玉切りにしていきます。
直径15~20cm前後の太さですが、伐るのはなかなか大変です。
ノコギリの使い方なども学びながら、みなさん黙々と伐っていきます。


玉切りにした丸太は、太いところの年輪を数えると20年以上ありました。
20年以上、成長しながら二酸化炭素を吸収し、炭素を蓄積してきたということになります。
チェーンソーを使って十字の切れ込みを入れ、スウェーデントーチの完成です!

参加者それぞれ1本~お持ち帰りいただきました。乾燥後、アウトドアアイテムとしてぜひお楽しみください♪

続いては低木の間伐体験。ここでもノコギリを使って、低木を伐採していきます。
このような雑木林の低木伐採は燃料の確保のために行われてきた伝統的な里山管理で、松之山では「ボイ伐り」と呼ばれています。
燃料として森林資源をほとんど使わなくなった現在、キョロロの森の中には管理が停止した低木の群落が多く見られます。
間伐により林床の光環境が改善することで、林床を生息環境とする様々な植物の成長を促す効果もあります。


伐採した木々は積み上げ、昆虫の産卵床や隠れ家のための「昆虫ハウス」としました。

そして、それぞれお気に入りの枝を切り、そこを柄の部分としたカトラリーを作りました。クロモジのさわやかな香りも広がります。
太さ、形、色など世界に一つしかないオリジナルカトラリーです。


里山整備活動で生じた間伐材をぜひ暮らしの中で使ってみてください!

2023年5月ハナアブしらべの結果報告

日曜日, 5月 21st, 2023

今年最初のハナアブしらべは松之山の中央にある標高674mに達する大松山で行いました。これまでの採集環境と異なる点は、地質が火成岩からなるということと、山頂でも採集を行う事です。山頂で採集することについては、いくつかのメリットがあります。一つはヒルトッピングという、飛ぶのが上手なチョウ、トンボ、ハチ、ハエなどの昆虫が交尾相手を見つけようとして山の頂上に向かう習性があるためです。もう一つは上昇流が山沿いの昆虫を山頂付近まで押し上げるためで、これを利用した採集方法は吹上採集と呼ばれます。今回は、これらの今までと異なる要素が松之山未発見のハナアブの発見につながらないか、期待しながら採集調査に臨みました。

天気は晴れ~曇りのまずまずの条件でした。ところが、我々に待ち受けていたのは尋常でない量のヤブカの大群でした。山頂までの道のりはジメジメした暗いところが多く、そこではとても採集できるような状態ではありませんでした。逃げるように山頂まで行くと、かなり量は減りましたがそれでも絶えず少量の蚊が追いかけてきました。同じくキョロロの調査イベントである「花ごよみ」でも大松山で毎月実施されたことがありましたが、ヤブカに悩まされることはなかったようです。今回はこのヤブカの発生ピークと重なってしまったか、あるいは今年は大量発生の年なのか・・・・。

このヤブカの猛攻によって早めに調査を切り上げることになりましたが、山頂にはハナアブやヤドリバエなどのハエや、ハナバチ類、チョウ類が多く集まっていました。今回は11種のハナアブを採集することができ、そのうち1種はなんと新潟県未記録のオオクチグロヒラタアブでした。その他、エダシゲオビヒラタアブとモンキモモブトハナアブはハナアブしらべでは初登場でした。この11種は以下の通りです。

①ナミハナアブ 2オス

②ツマキモモブトハナアブ 1オス

③ナミホシヒラタアブ 2オス

④オオクチグロヒラタアブ 1オス

⑤エダシゲオビヒラタアブ 1オス

⑥クロヒラタアブ 1オス

⑦ホソツヤヒラタアブ 1オス

⑧オオハナアブ 1オス

⑨モンキモモブトハナアブ 1オス

⑩マダラコシボソハナアブ 1メス

⑪ナガツヤヒラタアブ 1オス

新潟県未記録のオオクチグロヒラタアブはクチグロヒラタアブ属というグループに属しますが、外見上よく似た属が他にもあります。しかし、顕微鏡で拡大してみると、頭部と胸部の間の側面の小さな領域(前胸前側板)に長毛を生じるという、似た者同士の属グループの中では珍しい特徴を持ちます。写真だとかなり見づらいですが、クチグロヒラタアブ属(左側)では青い破線で囲った部分で毛の根元の部分が黒い点々として映っているのが見えるでしょうか(拡大して見ないと判別しづらいです)。

今回は運動会シーズンと重なったこともあり、参加者は少なめの3名でした。ヤブカの襲撃が絶えずあった中、調査を頑張っていただきました。お陰様でまたさらに松之山産ハナアブが1種追加されました。誠にありがとうございました。

次回のハナアブしらべは6/17です。次回は世界的にも珍しいハエ目を研究する同好会である「双翅目談話会」の会員の皆様と共同でハナアブ科を含むハエ目を調査する予定です。2021年6月に参加者が採集した幻のハナアブをみんなの力で発見できると期待したいところです。日本全国からハエ目のスペシャリストが大集合する珍しい機会ですので、ご関心のある方はぜひ次回ご参加ください。

 

追記

研究員個人のキョロロの森での5/16の調査で、次の2種の松之山未記録のハナアブを発見しました。キョロロの森でどんなに調査をしてもまだまだ未発見の種が出てくるものですね。

 

【命名!みんなのワクワクビオトープ】水辺ビオトープづくり:里山の生き物サポーターズ①

月曜日, 5月 15th, 2023

「里山の生き物サポーターズ」は里山管理活動と連動した市民参加型生物多様性保全活動です。里山の田んぼ、ため池、森、草地をフィールドにした里山管理活動を通して、みんなで楽しく生き物が暮らしやすい環境の創出や維持を目指しています。
「水辺ビオトープづくり」では、昨年から耕作放棄されていた田んぼ跡を水辺に戻し、いろいろな生き物が暮らし、観察できる環境づくりを目指しています。
作業はスコップで田んぼ跡の地面を掘り下げ、水がたまったり流れたりする環境を作ります。4月は昨年みんなで作った水辺ビオトープを拡張しました。


何年も放置されてきた田んぼ跡には大きく成長したススキの株がたくさんあり、掘り出し除去するのはなかなかの力仕事。
参加者の皆さんとは「こんな水辺をつくってみたらどうだろう」「こんな生き物が集まってきたらいいな」と、この小さな自然再生の目指したい将来像を共有しながら、活動を継続していきました。
そして活動2年目となったこの春、このビオトープではうれしいニュースがありました。
小さいながらも水辺が再生されたことで、「ニホンアカガエル」「クロサンショウウオ」といった両生類の産卵が確認されたのです!
継続して活動に参加されている皆さんにとっても、とてもうれしい出来事となりました。

▲ニホンアカガエル

▲初確認されたニホンアカガエルの卵塊

カエル以外にも、オニヤンマのヤゴ、コオイムシといった水生昆虫も見られ、観察できる生き物の種類や数が増えてきています。
また掘り起こした土の中で眠っていたスミレのタネが発芽し、植物も含めた生物多様性の再生につながってきています。
「生き物を守りたい」という一人一人の願いと行動が、少しずつ効果を伴ってきている、そんな実感につながったうれしい出来事でした。

今回の活動では参加した子ども達と一緒にこのビオトープの名前も考えました。
ついた名前は「みんなのワクワクビオトープ」。みんなで作り、そこにいろんな生き物が集まり、ワクワクする観察が出来る、そんな願いが込められています。
「里山の生き物サポーターズ」では、一歩一歩、今年も様々なフィールドで小さな自然再生をみんなで楽しく継続していきます。
里山に関わる一人一人の行動が、里山の持続的な暮らしと生物多様性のつながりの実感に結び付き、里山の生物多様性の保全やその達成に向けた教育資源となることを期待しています。