冬のズキンヨコバイとネジレバネ
日曜日, 2月 26th, 2017松之山在住の市民の方が、非常に興味深い昆虫を「1 度」に「2 匹」も持ち込んでくださいました。1 匹目は「ズキンヨコバイ」。
セミのようにも見えますが、体長は約 5 mm。セミと比較的近縁な仲間で、セミと同じく細い針のようなアゴ (口吻) を持っています。針のようなアゴをヤナギ類などに突き刺してその樹液を吸って生活しています。通常は 7~8 月に成虫が見られるため、この時期に現れることは珍しいと思われます。もう一匹は…実は既に上記の写真に登場しています。ズキンヨコバイの腹部をよく見ると、何か付いているのがお分かりになるでしょうか。
これはズキンヨコバイに寄生している昆虫で、「ネジレバネの仲間」です。
ネジレバネの仲間は昆虫の体内に寄生して生活していて、種によって宿主が異なります。ヨコバイの仲間以外にもハチやバッタ、カメムシ等の 7 目 34 科の昆虫に寄生します (Grimaldi and Engel, 2005)。ネジレバネの生活スタイルは寄生に特化しています。ネジレバネの幼虫は宿主となる昆虫の体内で成長し、オスは成虫になると宿主の体内から脱出して、交尾のためにメスを探して飛び回ります。メスは成虫になっても宿主から離れず、宿主の体内から体の一部を出してオスがやって来るのを待っています (Cook, 2014)。メスの成虫には眼、触角、脚、翅が無く、頭部と胸部もほぼ退化していてそれらが癒合した頭胸部となっています (Löwe et al., 2016)。
今回のズキンヨコバイの腹部から見つかったものはネジレバネの仲間のメス成虫の頭胸部で、メスの成虫の腹部はまだズキンヨコバイの体内に隠れています。
ネジレバネが寄生しても、宿主が死ぬことは無いようですが、その行動や形態に様々な影響が表れることで知られています。特にネジレバネのメス成虫に寄生された昆虫は寿命が延長され、ネジレバネのメスの成虫が宿主の体内で越冬して、メスの体内で育てた幼虫を放出するまで生きています (Kathirithamby, 2009)。寿命が延びるのならば宿主となった昆虫にとってメリットに思えるかもしれませんが、宿主は同時に生殖能力も阻害されているため、子孫を残せなくなった宿主にとってネジレバネは迷惑な存在であるといえます。
季節外れの時期に今回のズキンヨコバイが見つかった理由もネジレバネの寄生の影響なのかもしれません。
引用文献
石川良輔 (1996) 昆虫の誕生. 中央公論社, 東京.
Cook, J. (2014) Review of the Biology of Prasitic Insects in the Order Strepsiptera. Comparative Parasitology, 81 (2), 134-151.
Grimaldi, D. and Engel M.S. (2005) Evolution of the insects. Cambridge University Press, Cambridge.
Kathirithamby, J. (2009) Host-Parasitoid Associations in Strepsiptera. Annual Review of Entomology, 54, 227-249.
Löwe, S, Beutel, R.G. and Pohl, H. (2016) The female cephalothorax of Stylops ovinae Noskiewicz and Poluszyński, 1928 (Strepsiptera: Stylopidae). Arthropod Systematics and Phylogeny, 74 (1), 65-81.
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撮影日:2017年2月25日