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【研究報告】昆虫の進化に関する共同研究の成果が米国の科学雑誌へ掲載

土曜日, 2月 1st, 2025

キョロロの研究員による共同研究の成果が、1月29日付で米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」にて出版となり、筑波大学・愛媛大学・大分大学・北里大学と共同で1月31日付でプレスリリースされました。

一般的に「昆虫」はトンボやバッタ、カブトムシなどの「翅」を持ち、「脚を6本もつ」生き物であると認識されています。しかし昆虫が翅を獲得する以前の祖先的な形態を今なお保持する、生きた化石ともいえるような昆虫たちがいます。中でもしばしば昆虫という枠組みから外されることもある、カマアシムシ類(図1)、トビムシ類(図2)、コムシ類(図3)という3種類の昆虫は「昆虫がどうやって地球上に出現したのか」を理解する上で重要なグループです。



この3種類の原始的な昆虫とトンボやバッタといった狭義の昆虫との間の進化的な繋がり(系統樹)を解き明かす試みはこれまでも数多くの研究者によってアプローチされてきました。特にMisof らによる研究(Misof et al., 2014; DOI: 10.126/science.1257570)は膨大な遺伝子の配列データセットから昆虫全グループの系統樹を描き出し、上記の3グループの系統関係を含めて昆虫の進化について信頼性のある仮説を提唱しました(欠尾類―有尾仮説, 図4A)。

一方で近年になって南京農業大学のDuらは同じく大規模な遺伝子の配列データセット用いてMisof らによる研究とは異なる系統樹を導き出しました(カマアシ類―姉妹群仮説, 図 4B; Du et al., 2024; DOI: 10.1073/pnas.2423813122)。さらに自らの系統樹を支持する形態や胚発生のデータを示し、自身らの導いた系統樹の信頼性を主張しました。しかしながら本論文で Du らの研究で用いられている形態学や発生学のデータを検証したところ、Du らの研究ではそれらのデータへの理解が十分でなく、また引用も適切でないことが明らかになりました。こうした観点から本論文では形態学的、発生学的データからは Du らの提唱した系統樹は支持されず、Misof ら(2014)の「欠尾類―有尾類仮説」を改めて支持しました。

【題名】Embryology cannot establish the “Protura-sister”. 発生学は「カマアシムシ類-姉妹群仮説」を認めない
【著者】R. Machida, M. Fukui, S. Tomizuka, Y. Ikeda, K. Sekiya, and M. Masumoto
【掲載誌】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
【掲載日】2025年1月29日
【DOI】10.1073/pnas.2423813122
【URL】https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2423813122
【資料】http://www.matsunoyama.com/kyororo/blog/wp-content/uploads/PNAS2025PR.pdf